第 2 章: 仮実装と三角測量¶
2.1 はじめに¶
前章では、FizzBuzz の仕様を TODO リストに分解し、最初のテストを仮実装で通しました。この章では、三角測量 によってプログラムを一般化し、さらに FizzBuzz のコアロジックを実装していきます。
TODO リスト:
- 数を文字列にして返す
- 1 を渡したら文字列 "1" を返す
- 2 を渡したら文字列 "2" を返す
- 3 の倍数のときは数の代わりに「Fizz」と返す
- 5 の倍数のときは「Buzz」と返す
- 3 と 5 両方の倍数の場合には「FizzBuzz」と返す
- 1 から 100 までの数
- プリントする
2.2 三角測量¶
1 を渡したら文字列 "1" を返すようにできました。では、2 を渡したらどうなるでしょうか?
Red: 2 つ目のテストを書く¶
it "2 を渡すと '2' を返す" $
generate 2 `shouldBe` "2"
テストを実行します。
$ stack test
FizzBuzz.FizzBuzzSpec
generate
1 を渡すと '1' を返す
2 を渡すと '2' を返す FAILED [1]
Failures:
test/FizzBuzz/FizzBuzzSpec.hs:12:7:
1) generate 2 を渡すと '2' を返す
expected: "2"
but got: "1"
2 examples, 1 failure
テストが失敗しました。文字列 "1" しか返さないプログラムなのですから当然です。
Green: 一般化する¶
数値を文字列に変換して返すように修正します。Haskell では show 関数で Show 型クラスのインスタンスを文字列に変換できます。
generate :: Int -> String
generate n = show n
テストを実行します。
$ stack test
FizzBuzz.FizzBuzzSpec
generate
1 を渡すと '1' を返す
2 を渡すと '2' を返す
Finished in 0.0001 seconds
2 examples, 0 failures
テストが通りました。2 つ目のテストによって generate 関数の一般化を実現できました。このようなアプローチを 三角測量 と言います。
三角測量
テストから最も慎重に一般化を引き出すやり方はどのようなものだろうか——2 つ以上の例があるときだけ、一般化を行うようにしよう。
— テスト駆動開発
Rust では number.to_string() と書くところを、Haskell では show n を使います。Haskell の show は Show 型クラスを実装した任意の型で利用でき、Rust の Display トレイトと同様の役割を果たします。
TODO リスト:
- 数を文字列にして返す
- 1 を渡したら文字列 "1" を返す
- 2 を渡したら文字列 "2" を返す
- 3 の倍数のときは数の代わりに「Fizz」と返す
- 5 の倍数のときは「Buzz」と返す
- 3 と 5 両方の倍数の場合には「FizzBuzz」と返す
- 1 から 100 までの数
- プリントする
2.3 3 の倍数 -- Fizz¶
次は「3 の倍数のときは数の代わりに Fizz と返す」に取り掛かります。
Red: 3 の倍数のテスト¶
it "3 の倍数を渡すと 'Fizz' を返す" $
generate 3 `shouldBe` "Fizz"
$ stack test
FizzBuzz.FizzBuzzSpec
generate
1 を渡すと '1' を返す
2 を渡すと '2' を返す
3 の倍数を渡すと 'Fizz' を返す FAILED [1]
Failures:
test/FizzBuzz/FizzBuzzSpec.hs:15:7:
1) generate 3 の倍数を渡すと 'Fizz' を返す
expected: "Fizz"
but got: "3"
3 examples, 1 failure
Green: ガード式による条件分岐¶
3 の倍数のときは "Fizz" を返すように実装します。Haskell では ガード式 を使って条件分岐を記述します。
generate :: Int -> String
generate n
| n `mod` 3 == 0 = "Fizz"
| otherwise = show n
ガード式は | の後に条件を書き、= の後に条件が真のときの返り値を記述します。otherwise は常に True を返す定数で、すべての条件に合致しなかった場合のデフォルトケースとして機能します。mod 関数はバッククォートで囲むことで中置演算子として使えます(nmod3 は mod n 3 と同じ意味です)。
Rust の if 式や match 式に比べ、Haskell のガード式は数学的な関数定義に近い書き方ができます。
$ stack test
FizzBuzz.FizzBuzzSpec
generate
1 を渡すと '1' を返す
2 を渡すと '2' を返す
3 の倍数を渡すと 'Fizz' を返す
Finished in 0.0001 seconds
3 examples, 0 failures
テストが通りました。三角測量として 6 のテストも追加して確認します。
it "6 を渡すと 'Fizz' を返す" $
generate 6 `shouldBe` "Fizz"
$ stack test
4 examples, 0 failures
TODO リスト:
- 数を文字列にして返す
- 3 の倍数のときは数の代わりに「Fizz」と返す
- 5 の倍数のときは「Buzz」と返す
- 3 と 5 両方の倍数の場合には「FizzBuzz」と返す
- 1 から 100 までの数
- プリントする
2.4 5 の倍数 -- Buzz¶
Red: 5 の倍数のテスト¶
it "5 の倍数を渡すと 'Buzz' を返す" $
generate 5 `shouldBe` "Buzz"
$ stack test
FizzBuzz.FizzBuzzSpec
generate
5 の倍数を渡すと 'Buzz' を返す FAILED [1]
Failures:
test/FizzBuzz/FizzBuzzSpec.hs:21:7:
1) generate 5 の倍数を渡すと 'Buzz' を返す
expected: "Buzz"
but got: "5"
5 examples, 1 failure
Green: Buzz の実装¶
ガード式に 5 の倍数の条件を追加します。
generate :: Int -> String
generate n
| n `mod` 3 == 0 = "Fizz"
| n `mod` 5 == 0 = "Buzz"
| otherwise = show n
$ stack test
FizzBuzz.FizzBuzzSpec
generate
1 を渡すと '1' を返す
2 を渡すと '2' を返す
3 の倍数を渡すと 'Fizz' を返す
5 の倍数を渡すと 'Buzz' を返す
6 を渡すと 'Fizz' を返す
Finished in 0.0001 seconds
5 examples, 0 failures
三角測量として 10 のテストも追加します。
it "10 を渡すと 'Buzz' を返す" $
generate 10 `shouldBe` "Buzz"
$ stack test
6 examples, 0 failures
TODO リスト:
- 数を文字列にして返す
- 3 の倍数のときは数の代わりに「Fizz」と返す
- 5 の倍数のときは「Buzz」と返す
- 3 と 5 両方の倍数の場合には「FizzBuzz」と返す
- 1 から 100 までの数
- プリントする
2.5 15 の倍数 -- FizzBuzz¶
Red: 15 の倍数のテスト¶
it "15 の倍数を渡すと 'FizzBuzz' を返す" $
generate 15 `shouldBe` "FizzBuzz"
$ stack test
FizzBuzz.FizzBuzzSpec
generate
15 の倍数を渡すと 'FizzBuzz' を返す FAILED [1]
Failures:
test/FizzBuzz/FizzBuzzSpec.hs:27:7:
1) generate 15 の倍数を渡すと 'FizzBuzz' を返す
expected: "FizzBuzz"
but got: "Fizz"
7 examples, 1 failure
15 は 3 の倍数でもあるため、"Fizz" が返されてしまいました。ガード式は上から順番に評価されるので、3 の倍数の条件に先にマッチしてしまいます。3 と 5 の両方の倍数(つまり 15 の倍数)の判定を 先に 行う必要があります。
Green: ガード式の順序を修正¶
generate :: Int -> String
generate n
| n `mod` 15 == 0 = "FizzBuzz"
| n `mod` 3 == 0 = "Fizz"
| n `mod` 5 == 0 = "Buzz"
| otherwise = show n
ガード式は上から順に評価されるため、最も限定的な条件(15 の倍数)を最初に配置します。これは Rust の match 式のパターンの並び順や、Go の switch 文の case の順序と同じ考え方です。
$ stack test
FizzBuzz.FizzBuzzSpec
generate
1 を渡すと '1' を返す
2 を渡すと '2' を返す
3 の倍数を渡すと 'Fizz' を返す
5 の倍数を渡すと 'Buzz' を返す
6 を渡すと 'Fizz' を返す
10 を渡すと 'Buzz' を返す
15 の倍数を渡すと 'FizzBuzz' を返す
Finished in 0.0001 seconds
7 examples, 0 failures
三角測量として 30 のテストも追加しておきます。
it "30 を渡すと 'FizzBuzz' を返す" $
generate 30 `shouldBe` "FizzBuzz"
$ stack test
8 examples, 0 failures
TODO リスト:
- 数を文字列にして返す
- 3 の倍数のときは数の代わりに「Fizz」と返す
- 5 の倍数のときは「Buzz」と返す
- 3 と 5 両方の倍数の場合には「FizzBuzz」と返す
- 1 から 100 までの数
- プリントする
ここまでの作業をコミットしておきましょう。
$ git add .
$ git commit -m 'feat: FizzBuzz のコアロジックを実装'
2.6 まとめ¶
この章では以下のことを学びました。
- 三角測量 で 2 つ以上の例を使ってプログラムを一般化する手法
- Haskell の
show関数による整数から文字列への変換 - Haskell の
mod関数と中置記法(n `mod` 3)による剰余判定 - ガード式 による条件分岐の記述(
|とotherwise) - ガード式の 評価順序 の重要性(限定的な条件を先に配置)
- Red-Green-Refactor サイクルを繰り返してコアロジックを段階的に構築する方法
次章では、残りの TODO(リスト生成)を実装し、リファクタリングで「動作するきれいなコード」を目指します。